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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)1239号 決定

申請人 木下武夫

被申請人 財団法人済生会

被申請人 財団法人済生会支部東京都済生会

一、保証 無保証

二、主  文

一  被申請人財団法人済生会支部東京都済生会は、

(一)  申請人を、昭和二十五年三月三十日当時における被申請人財団法人済生会、申請人間の労働契約所定の労働条件に従い、その職員として処遇し、

(二)  申請人に対し、金三万三百八十四円六十六銭を支払い、

(三)  申請人が右東京都済生会中央病院医長として業務に従事することを妨げてはならない。

二  申請人その余の申請は、これを却下する。

三、理  由

第一申立の趣旨

申請人は、主文一の(一)、(三)と同旨並びに

「被申請人財団法人済生会が昭和二十五年三月三十日附を以てなした依願免職の意思表示は、その効力を停止する。

被申請人等は、申請人に対し、昭和二十五年三月三十一日以降毎月金一万五千百九十二円三十三銭を毎月二十五日限り支払わなければならない。」

との決定を求め、

被申請人等は、それぞれ「申請人の本件申請はこれを却下する。」との決定を求めた。

第二争のない事実

(一)  被申請人財団法人済生会(以下「済生会」と略称)は、診療施設の設置管理及び医療保護の普及に関する社会事業を営む財団法人であり、被申請人財団法人済生会支部東京都済生会(以下「東京支部」と略称)は「済生会」の支部として、東京都域において診療施設を設置、管理し、医療事業の実践にあたる財団であつて独立の予算編成、執行権と職員の人事権とを持ち会長によつて代表せられる権利能力なき社団である。

(二)  「済生会」は、もとその直営診療機関として、済生会病院及び済生会産院、乳児院を経営していたが、昭和二十五年三月三十一日現在で右両病院の建物、設備、器具、什器一切及び右両病院の全職員(但し申請人については争がある。)を現職、現給のまま「東京支部」の管理に移し、且つ両病院を合して、東京都済生会中央病院(以下「中央病院」と略称)と称するにいたつた。

(三)  申請人は、昭和九年二月以来済生会産院に勤務し、その勤務年数は通算十年四ケ月であつて、その間副医長二年六ケ月、医長三年七ケ月の経歴を有し、昭和二十五年三月三十日現在において、産院、乳児院医長の職に在つた。

しかるところ「済生会」は昭和二十五年三月三十日附を以て、申請人を、願により免職する旨の意思表示をなした。

第三、申請人の主張

(一)  申請人は、昭和二十五年二月二十日済生会病院長兼産院乳児院長中山安に対し辞表を提出したことがあるが、右中山院長の慰撫にこたえて、辞意を撤囘し、その旨は同年三月二十八日中山院長から「済生会」常務理事加藤進に対し、伝達されたのである。このように前記依願免職は、申請人がその辞意を撤囘した後になされたものであるから、何等効力のないものである。このように「済生会」が、申請人において辞意を撤囘したことを知りながら、あえて依願免職の意思表示をなしたのは、申請人が済生会従業員組合の副委員長又は委員長として活溌に組合活動をしたことを快く思つていなかつたので、偶々前記辞表が申請人に取戻されていなかつたのに乘じ申請人を「済生会」から除外しようとする意思に基くものである。従つて、右解雇は不当労働行為として無効である。

(二)  従つて、申請人は本来前記のように現職、現給のまま同年四月一日以降「東京支部」の従業員として勤務することとなつたわけである。而して、右移管当時の申請人の給与は、一ケ月金一万五千百九十二円三十三銭である。

(三)  しかるに被申請人等は、右解雇が有効であるとして、申請人の従業員たる地位を否認しているので、申請人はその地位の確認、就労並びに賃金の支払を求めるものであるが、本案判決の確定をまつては囘復すべからざる損害をこうむるので、申請の趣旨記載の仮処分を求める。

第四被申請人等の主張

(一)  申請人は、正式に辞表を撤囘していないのであるから、これを受理してなした「済生会」の依願免職の発令は有効である。すなわち「済生会」両病院の人事は、病院の管理者たる中山院長の内申に基き「済生会」本部がこれを管理するのであるが、本件の場合、中山院長は申請人からの辞表の撤囘の申出は、これを適法なものと認めず、内申書を添え「済生会」本部へ送付してきたので「済生会」は申請人の辞意を認め依願免職の発令をなしたものである。

(二)  仮に、右解雇が無効であるとしても「済生会」と「東京支部」とは財団法人としては、同一体のものであるが、病院の管理、人事、会計の点では、全く別個の企業体であつて前記病院の移管は、「済生会」病院及び産院、乳児院の廃止、「中央病院」の開設という形式を以て行われ、又「中央病院」の職員はすべて新規採用の発令によつて就職したものであつて、自働的に「中央病院」の職員となつたものではない。もつとも「済生会」と「東京支部」とのあいだには「済生会」の職員であつて、昭和二十五年三月三十一日在職のものは、現職、現給のまま「中央病院」の職員として任命する旨の協定が成立していたが、好ましからざるものは協議のうえこれを除く旨の了解が成立していた。しかるに申請人は、調和性のない人物として、好ましからざるものの第一人者に挙げられており、「東京支部」では、申請人を新たにその職員として任命しないことになつていたのであるから、仮に本件免職が無効であつたとしても、申請人は「中央病院」の職員たり得ないものである。

第五当裁判所の判断

(一)  被申請人等の当事者適格

申請人主張のように本件免職が無効であるとすれば、申請人が現在いずれの被申請人の従業員となつているかということによつて、被申請人等の当事者適格が定まるから、まずこの点について考察する。

「済生会」と「東京支部」とは病院の管理、人事、会計の点では独立した経営体であるということができるが本件病院の移管は「済生会」両病院の建物、設備、器具、什器一切及び右両病院の全職員(但し申請人については争がある)を現職、現給のまま「東京支部」の管理に移すものであるから、有体、無体の財産(物的要素)及び労働者(人的要素)の有機的統一体たる経営組織は解体せられることなくその同一性を維持しつつ存続し、単にその経営を指揮、管理する経営主体が交替したにとどまると解すべきである。かかる場合の法律関係を考えると、経済的には、経営組織が包括的に新経営主体に承継せられるのであるから、法律的にも、旧使用者との労働関係がそのまま新使用者に包括的に当然承継せられたとみるのが相当である。(なおこの法理は船舶所有者が交替した場合に旧所有者とのあいだの労働契約は終了するが、その終了の時から新所有者とのあいだに従前と同一の条件の労働契約が成立したものとみなすという船員法の規定[同法第四十三条]からもうかがえる。)このように理解すると申請人は、「東京支部」に対しては従業員たる地位の確認その他の請求をなす利益を有するが、「済生会」とのあいだには何等雇用関係が存在せず、これに対して地位の確認を求める利益は存しないのであるから、その確認を前提として「済生会」に対し地位の保全を求める本件申請は爾余の点について判断するまでもなく失当である。

(二)  解雇の効力

申請人が中山院長に対し辞表を提出したのは、産院運営についての意見を具申し、もしそれが容れられないときは辞職するという意図に基くものであるが、申請人は中山院長の慰撫により辞意を保留し、昭和二十五年三月二十四日遂に辞意を撤囘するに至つたこと及び「済生会」も右のいきさつを十分知つていたことが認められる、従つて申請人に辞職の意思のあることを前提としてなした依願免職の発令(法律的にいえば、労働契約の合意解約)は無効である。けだし申請人には、労働契約を終了せしめる旨の効果意思のないことは前段認定の事実に徴し明らかだからである。(辞表は、辞意のあることを表明する一の文書にほかならないから、辞表が撤囘されなかつたからといつて、辞意の撤囘を否定することができないのはもちろんである。)

(三)  「東京支部」への承継

従つて、前項で述べたところに従い、申請人は昭和二十五年四月一日以降「東京支部」の職員たる地位を取得したことになる。もつとも職員の承継に関し、「東京支部」は申請人をその職員として任命する意思がなかつた旨主張するが、前記のごとき経営組織の承継の場合には、正当の事由なくして特定人の承継を拒否し得ないと解しなければならない。けだし経営組織ということに着目してみれば、その活動の継続中経営主体の交替に際し、特定人を排除することは、実質的には、そのものを解雇すると同じことになるのである。而して被申請人等の提出した疎明方法によつても申請人が病院経営の円満な遂行を阻害するほど調和性を欠くという事実は認められない。従つて、申請人は「東京支部」の職員となつたものと解すべきである。

(四)  結論

解雇が無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、俸給生活者にとつて囘復すべからざる損害であるから仮の地位を定める仮処分として被申請人「東京支部」に対し、

(1)  申請人を前記病院移管当時の労働条件に従いその職員として処遇すべきこと、

(2)  すでに期限の到来した二ケ月分の俸給を支払うべきこと、

(3)  申請人が「中央病院」医長として就業することを妨害すべからざること、

を命じ、将来の俸給の支払を求める部分は、その必要なきものとして、又被申請人「済生会」に対する請求は、当事者適格を欠くものとして、これを却下すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 高島良一)

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